こだわりの麺づくり

プロの想いを受け止める

ここ庄内地方のラーメン店で使われる生麺の生地は、多加水麺と呼ばれる加水率40%以上のものが主流です。
しかし、最近では当地でも九州発祥の「豚骨ラーメン」に人気が集まっています。豚骨ラーメン用の麺は、加水率が30%未満と低く、状来の麺に比べて細くて堅いのが特徴です。 ラーメンには「こってりスープ」や「あっさりスープ」など、様々なものがありますが、スープによって同じ生地でも麺の太さや柔らかさを変える必要があります。 麺によってラーメンの味が変わるのです。

この「豚骨ラーメン人気」にお応えするために、どのような麺を作るのか随分と試行錯誤しました。あるお店のご要望にお応えしようと豚骨ラーメン用のサンプル品を二週間作り続けました。「これでもダメか」、「これならどうか」という具合にです。 麺とスープのベストマッチを探り続け、ようやくお店から「合格」のお墨付きをいただきました。

一人あたりのラーメン消費量が日本一と言われる山形県にあって、どのラーメン店も「どこにも負けない」という気概で努力しています。 そのプロの想いに細やかにお応えするのは大変難しく、しかし、またやりがいのあるところです。 プロのニーズにお応えするために、現在では約20種類の生ラーメンの製造を行っています。これからも「麺の研究者」として試行錯誤する日々が続きます。

理想の麺を作るために

昔は製粉会社1社のみ (3種類程度) の小麦粉を使っていましたが、時代の多様化とともに、今は5社 (10種類以上) の粉で麺を作っています。 同じ麺を作るにしても、メーカーによって全く違うものが出来上がります。
また、採れたての地元産そば粉で風味豊かな蕎麦を作ったり、三陸産わかめの粉を練りこんで「わかめうどん」を作ったり、とにかく「10の商品」を作るのには「10の作り方」があって、更にその日の気温と湿度によって、水の調合割合を変えるなど、細心の対応が必要です。これを間違えると商品として出荷できないものになってしまいます。

そして、たくさんのお客様のご要望にお応えするためには、量産するための機械の導入は欠かせません。
引退した父からは、「機械がすべてを作るのではない。機械の特徴をつかみ、コントロールしながら理想の麺を作り上げろ」と良く言われます。 これは簡単なことではありませんが、この言葉を道しるべに理想の麺づくりに挑戦し続けたいと思っています。

じいちゃん、絹のうどんを作ったよ!

当社は昭和4年の創業です。
祖父が新潟に麺づくりの修行に行き、その後鶴岡に戻って麺づくりを始めたことが富樫製麺の生い立ちです。
そして、ここ鶴岡は絹織物の生産が盛んな地域であったため、その当時は絹の織物工場も営んでいたとのことです。

祖父は亡くなってしまいましたが、今でも大切に作っているのが祖父のこだわった「羽二重 (はぶたえ) うどん」です。
このうどんは純白で光沢があり、まるで羽二重織物 (絹織物) のような上品な質感があります。
祖父の麺づくりに対するこだわりは、未だに当社の想いそのものです。

ところで、「絹のような純白で美しいうどんを作りたい」という祖父の願いを本当に実現させてしまいました。
当社も含めた製麺業三社で研究に研究を重ね、ジェル状にしたシルクプロテインを麺に練りこんだ「絹入り麦切り」を開発したのです。
茹で上がった麺の表面は、正に絹織物の質感そのものです。しっかりした歯ごたえと、つるりとなめらかに喉を通り抜ける食感の「絹入り麦切り」は、お陰様で鶴岡の名産品としてご好評をいただくようになりました。
「じいちゃん、本当に絹のうどんを作ったよ!」

母が作る特別な麺つゆ

母は数年前に現場を離れましたが、年末になるといつも自家製の「麺つゆ」を作ります。
このつゆは昔から受け継がれてきた製法で作るもので、正に手作りの特別仕立てです。

「作ったら教えてくれ」と、このつゆを買い求めに近所のお客様がおいでになります。ところが、これには添加物が一切入っていないので、2~3日ですぐ駄目になるのです。それで、「今日か、最悪でも次の日には食べてくださいね」と言ってお渡ししています。

食べてみると、魚のだしがきいていて、さっぱりした味なのに、どこか懐かしい思い出がよみがえるような感覚に囚われます。「麺つゆの原点」ともいうべき宝物です。
子供のころからこの麺つゆを食べて新年を迎えてきた私には、本当に欠かせない特別なものです。量産できないのが本当に残念です。